幼少期にペットを飼うとアレルギーが減る?
アレルギー外来にいたころ、呼吸器科の医師が妊婦の患者さんにこんなことを言ったことがありました。
「お子さんのアレルギーが心配なら、ペットを飼うといいかもしれませんね。1歳までに動物とふれ合った子供はアレルギーに強い体質になるという報告があるのです。」
へ〜、ホントかな?と、その時は思ったものです。
ペットが原因のアレルギーもあるくらいだから、逆なような気もするけれど・・・
でも抗体を獲得する1歳までに色々なものにふれ合うことは、確かに大切。
お砂場で遊ばせるとか、沢山の大人に抱っこされるとか。
⇒出産環境と腸内フローラはこちら
日本人がこんなにも多くのアレルギーに悩まされ、免疫力が低下し始めたのは最近のことです。
私達の幼少期には、学年に1名か2名いるくらいだったと思います。
現代の子供達のアレルギー申告を見ていると、何もアレルギーがない子供はクラスに数名ほど。
人間社会が個人主義になり、人と群れなくなったことで、私達の腸内環境は大きく変化し始めています。
人と人との触れあいは、なんと腸内細菌の多様性を促す作用があるそう。
本日は、米デューク大学の研究内容から「集団生活と腸内環境」についてお伝えしたいと思います。
仲間と群れることには意味がある
人と人とのふれあいは、運動や食事と同じくらい健康に影響するということは以前から言われていますが、細菌学の視点からみても「仲間と群れる」ことは腸内環境を整える秘訣になるらしいのです。
集団内での交流は、体に良いとされる「腸内細菌の多様化」を促す作用があることが、米デューク大学のチンパンジーの研究で発表されました。
タンザニアの国立公園にチンパンジーの研究地域があります。
研究者は、幼年から高齢のチンパンジー40頭を2000年〜2008年まで追跡調査し、季節ごとに変化するチンパンジーの食生活や活動パターン、個々のチンパンジーから採取した腸内細菌叢を調べました。
ここで生活するチンパンジーの群れは、食べ物が豊富な雨期になると、集団でエサを探しまわり、盛んに毛づくろいを始めます。
エサが少ない乾期になると、小さなグループか、単独で過ごす時間が多くなり、必然に多数との交流が少なくなります。
雨期には、チンパンジーの腸内細菌の種類は乾期に比べて20〜25%ほど増えていることが分かりました。
研究グループはこの変動の一因として、細菌の多様性を促すものは、チンパンジーの主食となるフルーツ、昆虫、葉っぱなどの植物だけではなく、季節ごとで変わるメンバー同士の交流が関与していると考えました。
面白いことに、メンバー内の腸内フローラが、親子のものと同じほど似通っているのです。
赤ちゃんの腸内細菌は母から子供へ、出産時や授乳で受け継がれますが、これは腸内細菌が時間が経つにつれ群れのメンバーからも引き継がれていることを示しています。
エサを探しまわるために集団で行動することの多い雨期には、毛づくろい、生殖行為、その他に多数の排泄物に触れる機会が増えることがその理由として挙げられています。
共存が大切な理由
腸内フローラは、ヒトの健康において重要な鍵です。
腸内に生息する複雑な微生物生態系は、人間の免疫を活性化させ、病原菌の感染を制御したり、大切なホルモンの分泌に関与しています。
肥満、糖尿病、うつ病、パーキンソン病と腸内細菌の関連性もわかりつつあり、腸内フローラの多様性が失われるとクローン病、潰瘍性大腸炎、クロストリジウム・ディフィシル感染症といった重症な病気に発展することもあります。
腸内フローラ改善のため、乳酸菌やビフィズス菌などの「プロバイオティクス」が注目されていますが、常在細菌のバランスこそが健康において重要な役割を果たしていることは明らかです。
今回のチンパンジーの研究結果は、人間社会においても通じるものがあります。
チンパンジーの糞から検出されたプレボラ属やオルセネラ属などの細菌は、ヒトの腸内にも多く存在する細菌です。
おそらく人間も社会交流によって、腸内細菌の交換が行われているのではなかと考えられます。
ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ。
うちの生物部の次男はつぶやいています。
「それはウサギだけじゃなくて、あなたもでしょ。」
人間がお友達と群れたくて仕方がないのは、どうやら腸内細菌の仕業かもしれませんね。